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    「なあ、先生」

    「あいつももう仕かたがないのですよ。『青ペン』通いばかりしているのですから。」

    「えゝ、まだですが――何か御用?」

    「今日は士曜日で、半休だからね」

    伊東は市ではあるが、熱海とは比較にならないほど、ひなびている。けれども温泉場であるから、道路には広告塔があって休むことなく喋りまくり唄いまくっているし、旅館からは絶え間なくラジオががなりたてて、ヘタクソなピアノもきこえる。先方も商売であるから、静かにしろ、と云うわけにはいかない。

    「どうぞよろしくお願ひします」

    むかしからおれとこの人とは仲よしだつた――それは押しかくすことのできない悦ばしさだつた。

    「あいつらと来たら、すぐこれ!だからね」

    「それに、永い間この土地をはなれていたもんですから、土地の事情にもすつかり疎うとくなりましてね、これは一つ、どうしても今後こちらのお力にすがらないことには立つていけないと思つている次第ですが――」

    冬近い冴えた日ざしが午過ひるすぎの河原町の長い、だが人気のない通り一杯に溢れていた。一体みんな何をしているんだらう、まさか軒並みに夜逃げしたわけでもあるまいのに、と呟つぶやきたくなるほど人の子一人いなかつた。そして、冴えているがしだいに温ぬくもりの増して来る日は、何だかのうのうと、つまり誰もいないので日そのものが路一杯にひろがつて日向ひなたぼつこをしているみたいであつた。

    「へえ、どういふわけでせう」

    「いや、危険はまづない見込だ。だが、何と云つたらいゝか――」

    「挨拶みたやうなことはもうしたかの」

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